ちゃんと眠ることができず目の下にくまができた僕は教科書を取りにロッカーへ向かった。「あ、あの」誰が後ろから話しかけてくる。振り向くとそれはまさにあの子だった。「え、うん。どうしたの?」お互いのたどたどしさに苦笑した。「私まだ友達いなくて。だから、聞きたいことがあるの」何か聞きたいときに僕を選んだのは正解だと思う。僕みたいな断れなさそうなやつは一番聞きやすいだろう。なんて今日も自虐ネタのキレはばっちりだ。「数学の先生って誰かわかる?」こう来るとは思わず困惑した。「あー、数学の先生はたくさんいるけどどんな人?」「女性の先生」そんなざっくりした答えでわかるわけないと言いたかったが何せ初対面で転入生だ。「でぶっちょの?」苦笑しながら彼女は首を横に振る。「口のデカイ人でしょ?」するとぷっと吹き出し彼女は笑った。その笑顔はたしかにかわいい。「きっとその人だわ。それで通じちゃうなんて」彼女を先生のところまで案内する間に色々と話した。わかったことはリリー・トンプソンという名前で数学が好きだと。僕にしてはよくやったと、そんな満足げな様子で教室へ戻ってきた僕をルーカスは待っていたようだ。「可哀想な女の子だったなあ、お前なんかに話しかけちまって」あいつのダミ声は汚いわりに響きやすい。あいつと周りを冷たい目で見たあといつものように教室に入った。