「それでどうなったのー!!??」

翌朝、沙耶の部屋にヤギちゃんの甲高い声が響いた。

時刻は午前9時。
朝っぱらからヤギちゃんのテンションの高さについていくのはなかなかキツい。

沙耶もあの飲み会のあと、朝までコースだったからか、1時間しか寝てない……と、ぐったりしている。

実は、明け方、沙耶から「凪の鍵見つけたから、こっち戻ってきたら私の部屋まで取りに来て」と連絡が入っていたのだ。

ホッとして飛び上がり、武田さんにこちらの寮に車で送り届けてもらったあと、すぐに沙耶の部屋を訪ねた。

すると何故か全然関係ないヤギちゃんもそこに居て、現在、根掘り葉掘り聞かれている最中なのだ。

「どうなった……って。別に、部屋の端と端で寝たってだけだよ」

「何もなかったの?」

沙耶がつまらなさそうに呟く。

「うん、何も。私の寝相が悪くて、布団からはみ出て、転がって、武田さんの隣まで到達してたっぽいけど、何も無かった」

「コロコロ寝返り打って端から端まで移動してたってこと??」

「そう」

「やだ、赤ちゃんみたーい」

ヤギちゃんは私の肩をバンバン叩きながら笑っている。

「ちょ、ちょっと待って。要するに信玄さんの隣で寝てたのよね? それでいて、何も無かったわけ?」

沙耶は額に手を当てて、意味がわからないというような表情を浮かべた。

「うん。何も。起こされた気がするけど、眠すぎて動けなくて」

そして、呆れた武田さんに『お姫様抱っこ』されて布団に戻された……のだが、それは秘密にしておく。

あの頼もしい腕の感覚や、浴衣がはだけて露わになった分厚い胸板を思い出すと顔がニヤけてしまいそうだからだ。

「凪っち……全く女として見られてないのね……」

ヤギちゃんが哀れそうに私を見た。

「べ、別に、女として見られなくてもいし!!」

ムキになって言い返す。

「普通ね、そういうシチュエーションになったら男女っていうのは何かが起こるものなのよぉー??」

「ふぁぁー。つまんなーい。お膳立てしてあげたのにー」

沙耶は欠伸をしながらさらりと言った。

「え?」

「あぁ。ごめん、飲み会の時、凪の鍵わざとカバンから抜いといたのよ」

「ふぇっ!?」

変な声が出る。まさか仕組まれてたなんて……

「花田課長の提案よ? 2人がいい感じだったから、何か間違いでも起きたら面白いなーって。でも残念ー」

くそー、あの腹黒策士め……!!

「あらぁ!お茶目! 花田課長って、イイオトコよねぇー」

ヤギちゃんはうっとりとした表情で言った。
あの胡散臭い腹黒野郎のどこの部分が『お茶目』で『イイオトコ』なのだろう??是非教えてほしい。