私はそのあとタオルと服を貸してもらい、シャワーを借りた。

「女性物はないからこれで我慢しろ」と渡された黒いTシャツは大きめで、ジャージのズボンは裾が長すぎてほぼ引きずっていた。

もれなく全て、柔軟剤の奥に「武田臭」を感じて、その匂いに包まれると妙にドキドキした。
あー、体臭がタイプすぎる。

首に手ぬぐいを引っ掛けて、濡れた髪を拭きながら部屋に戻ると、武田さんはパソコンに向かってカタカタ何かを打ち込んでいた。

「え、仕事ですか?」

「あぁ、早めに終わらしておきたい仕事があってな」

武田さんはそう言ったあと私の方をみて、一旦手を止めた。
ジーっと見つめられて、妙な緊張感が走る。

「ど、どうしました?」

私が尋ねると、武田さんはハッとしたように我に返り「髪が思ったより長くて驚いただけだ」と言ってまたキーボードを打つ手を動かし始めた。

そうか、いつも団子ヘアにしているから、髪を下ろした姿は見られたことないのか!

「へへへへ、新鮮ですか?」

調子に乗って、武田さんの隣に座って、濡れた髪をファサファサ揺らすと、迷惑そうに腕でガードされた。

「おい、不用意に近づくな」

「どうしてですかー」

ガードしている腕をツンツンと突くと、その手を武田さんにグッと掴かまれ、引き寄せられた。

「ひっ」

距離が急に近くなって、ドッカンドッカンと胸が変な音を立てる。

「油断しすぎだ」

「へ……?」

「俺は男で、お前は女だろう。もう少し警戒しろ」

耳元で低い声が響き、鋭い目線に射抜かれて、私は腰を抜かしそうになった。

ヤバい、誰これ……。

怖くなった私は、目をぎゅっとつぶって顔を背ける。

「たたたた武田さんのことは、信用してますから!! 私に手を出すとか絶対ないってことは、分かってます!」

そう叫ぶように言うと、武田さんは掴んでいる手の力をフッと抜いた。

「……当たり前だろう。揶揄ってみただけだ」

心臓に悪すぎる。
調子に乗った私が悪いのだけども……髪ファサファサの仕返しにしては、ちょっとやりすぎじゃないでしょうか武田さん……!?