「え~!?まだ提出してないの~!?」

昼休み。
社員食堂の真ん中で、同期の沙耶(さや)が、元々大きな目を更に大きくし、元々高い声を更に高くして叫んだ。

沙耶は、フロント勤務をしている。
仕事中はよく顔を合わすけれど、こうしてゆっくりと話すのは久しぶりだ。
『JJ』を渡された日以来かもしれない。(さっき武田さんに没収されてしまったことは、秘密にしておく)


「うん。もう忘れられてると思ってたのに、びっくりびっくり」

私がそう言うと、沙耶はマスカラを塗りたくってる睫毛をパチパチさせる。

「いやいや、提出物1年間も放ったらかしって、そっちにビックリよ。アンタ一体どんな神経してるの?」

私は日替わり定食(今日は生姜焼き)の大盛りをがっつきながら「さぁ」と答えた。

社食は、全メニュー250円。安い上に、どれも美味しい。味噌汁の味が濃い目なのは、気に入らないけど……。
一方、沙耶はヘルシーランチとかいう、まるで草原の一部みたいな、サラダばっかりのワンプレートランチをゆっくり食べている。
流石 “ジョシ” は、質が違う。

そんなウサギの餌みたいなもの、私なら絶対注文しない。
値段が同じなら、日替わり定食の方が明らかに腹が満たされるし、原価率も高そうだし、お得だからだ。

「さっさと書いちゃえばいいのに!」

「うーん。でもあのレポート用紙、行方不明なんだよね」

「凪の部屋汚いもんね。ゴミ倉庫的な」

「笑顔で酷いことを言いなさる」

「美しいものには棘があるっていうでしょ」


沙耶はケラケラと笑った。
粒の揃った真っ白な歯が、潤った赤い唇から覗いた。