「2次会はカラオケでーす!」

げ、噓だろぉぉぉ!
飲み会がお開きになって、さぁ帰るぞと思ったらこれだ。
うんざりする。2次会って制度、ほんと意味不明。
てかみんな本当はカラオケなんか行きたくないよね? 酔っぱらってるからノリでウェーイ!ってなってるだけだよね?是非そうであってくれ。

「悪いが、俺は明日に備えて帰らせてもらう」

神の一声だった。
みんなが2次会へと向かおうとワイワイしている中、1人絶望に打ちひしがれていた私にとって、武田さんが「帰る」と言ってくれたのは本当に救いだった。

カラオケにいる武田さんの姿が想像つかないので(例えば、演歌を熱唱する武田さん、嫌々マラカスを振る真顔の武田さん、よく分からないけどとりあえず音楽に合わせて体を揺らす武田さん……など)ちょっぴり見てみたかった気もするけど。

「おい、高畑も乗れ。随分酔っぱらっているようだから寮まで送ろう」

車の鍵を持った武田さんが、ひょいひょいと手招きをした。

「武田さーん! 流石です! ありがとうございます!」

本当に神に見えたので、両手を合わせて拝んでおく。

「お前、俺の目を盗んでアルコールを飲んだだろう」

「大した量じゃないですよ」

「下戸は飲むなと言っただろう」

「間違って飲んじゃったみたいですー」

武田さんは深いため息をついてから「もういい、来い」と言ってスタスタと近くのパーキングまで歩き始めた。

「ちょっと待ってくださいよー」

ふらふらとしながら、武田さんを追いかけてタックルするように腕にしがみつく。なんだか線香のような渋い匂いがした。

「おい、離れろ。あらぬ疑いをかけられたらどうする」

「じゃあもう少しゆっくり歩いてくださーい」

「……あぁ。悪かった」

武田さんはそう言って、私の片腕をひっつかみ自分の肩にまわし、引きずるようにして連行した。

「ちょっとー武田さーんレディーの扱いはもう少し丁寧に……」

「どこにレディーがいる。酔っぱらうと面倒だな」
「武田さんが無理やり参加させたんでしょうー」
「あぁ、実に。失敗だった」

そして武田さんの車の中で、寮に着くまで私は、迷惑そうな顔をしている運転手の顔を眺めながら、1人陽気にベラベラとしゃべり続けたのだった。