「おーい、いつまで寝たふりしてるのかな?」

起きるタイミングを逃してしまって、誰かが起こしてくれるのを待っていたところ、ようやく声を掛けてくれたのは花田課長だった。

「気づいてたんですか」

むくりと起き上がって、花田さんを睨みつけると、彼はニコニコと人当たりのいい(偽りの)笑みを浮かべていた。その仏のような笑顔が逆に怖い。

「ははは。結構前から目覚めてたよね?」

「気づいてたのならもっと早く起こしてくれても良かったんじゃないですか」

「うーん、でも、君、起きてても暇そうだから」

「っぐ。そ、その通りですけどもね」

この人、私のこと割と本気で嫌いだよね? ニコニコ顔で酷いことばっかり言う。この腹黒男!!

「僕たちの話、聞き耳たててただろう?」

「人聞きの悪い。聞こえちゃっただけですよ! 私の悪口言ってるから!あれじゃ嫌でも耳に入ります!」

「ははは。だよねぇ」

「ほんとーに、花田さんって性格悪いですね?」

「ありがとう」

花田さんは余裕たっぷりだ。くそう。腹が立つ。

「褒めてません!」

「随分と生意気な口をきいてくれるじゃないか」

「無礼講でしょう」

「君、結構酔っぱらっているね? なかなか酒癖の悪い」

「花田さんが意地悪だからです!」

「武田くんは、優しいだろう?」

なんでそこで武田さんを登場させるのだろう。

「……まぁ」

「いい上司だよ、武田君は」

「知ってますー」

「ほーう」

「なんですか」

「いんや? これからも彼に色々教わりながら、頑張ってね」

花田さんはニヤニヤと笑いながら私の頭をポンポンと撫でた。
気安く触らないでほしいものだ。