「おい高畑、大丈夫か」

肩を揺すられて目を開けると、視界がぐるぐると回っていた。

「開始早々酔っぱらっているのか」

と、私を覗き込んでいたのは武田さんで、めちゃくちゃ迷惑そうな顔をしている。

私はこの場が暇すぎていつの間にか眠っていたらしい。
その間にテーブルにはたくさんの料理が運ばれていて、相変わらずみんな私のことなど気にかけることなくワイワイと楽しんでいる様子だった。

「疲れが溜まって寝てただけですぅー」

そんな中、武田さんが来てくれたことで妙な安心感を覚え、口元がにやけてしまう。

「水を飲め」

冷たい水の入ったグラスをグイと押し付けられて、それをごくごく飲み込んだ。あぁ生き返る。

「下戸なら無理してアルコールを飲むな」

その言葉にカチンときた私は溜まっていた鬱憤を晴らすように、武田さんに当たり散らす。

「最初に『とりあえず全員生中で』って言った人に文句言ってくださいよ! 飲みたくもないビールを仕方なく飲んだんですコッチは。褒めてほしいくらいです。大体、武田さんが無理やり飲み会に連れてきたんじゃないですか」

「無理矢理だと? 心外だな。お前は烏龍茶で十分だ」

武田さんが、烏龍茶の入ったグラスをゴン、と私の前に置いた。

「嫌です! こうなればヤケ酒です! 私はこれを飲むんです!」

いつの間にやら届いていたらしい生搾りグレープフルーツ酎ハイのジョッキを見つけ、自分の方に引き寄せた。

「おい、倒れるぞ」

「そうなったら武田さんが責任持って寮まで送り届けてくださいよ! アナタが連れてきたんですから」

「知らん」

「無責任な!」

「まぁいい。兎に角、これを食え。旨いぞ」

武田さんは再び生搾りグレープフルーツ酎ハイを私から遠ざけて、絶品だというスジこんとだし巻きを、お皿に取り分けてくれた。
お腹がペコペコだった私はむくれながらも、それらに箸を伸ばす。

「お、おいひぃ……」

口に入れた瞬間、広がる世界。
絶妙な味付けでトロトロに煮込んであるすじコン、お出汁の優しい風味が広がるふわっふわのだし巻き……
美味しさのあまり、涙が出そうになってしまう。

「旨いだろう。これも食え」

武田さんは薄ら笑いを浮かべて、次々と美味しい料理を大皿から取り分けては、こちらに渡してくれた。
(気づけば私が注文した生搾りグレープフルーツ酎ハイは、新人奥田が飲んでいた)

「どれも美味しいです」

「うむ、良かった」

武田さんは、ノンアルコールの瓶ビールを手酌で飲みながら、満足そうな表情を浮かべている。

「あの、お酒、飲まないんですか?」

すごい酒豪だって噂で聞いたけど。

「あぁ、この後どうしようもない部下を、寮まで送り届けないといけないからな」

あ、そっか、車……。

「ん、どうしようもない部下って、私のことですか?」

「それ以外誰がいる」

私の送迎をするために……?
あれれ? 武田さんってめっちゃいい人じゃない? 口は悪いけど。
でもまぁ、飲み会の参加を強要したのは武田さんだし、当然といえば当然の責任か。

「ありがとうございまふ」

こうしてすっかり機嫌を取り戻した私は、もぐもぐとひたすら食べまくったのだった。