はじめは聞こえないふりをして寝ておこうかと思っていた。
でも寮に住む従業員たちが驚いて続々と外に出てきて、軽い騒ぎになってしまったので、仕方なく布団からずるずると這い出て対応した。

「理由は後で話す。とにかく3秒で着替えて、ついて来い」

武田さんにすごい気迫で言われたので、私は寝ぼけながら、ボサボサの髪をなんとなく束ねて、 スッピンのまま制服を着て、言われるがまま、ピカピカのクラウンに乗り込んだ。

武田さんだって眠たかっただろうに、嫌味を言うでもなく、いつも通りの仏頂面でホテルまで連行してくれた。

「お前は俺に合わせて謝罪するだけでいい。絶対、余計なことは口にするな」

そう車の中で何度も念を押された。

「鈴木様」はロビーのソファーで酒を煽りながら待ち構えていて、顔を合わすなり、くどくどと説教を始めた。
武田さんは「鈴木様」の話を真摯に聞き、私はあくびを噛み殺しながら、言われていた通りに謝罪することだけに専念した。

そして武田さんの見事な対応で、その場は丸く収まり「鈴木様」は笑顔で部屋に帰っていったのだった。