「若気の至りだ」

武田さんは、難しそうな表情を浮かべていた。その心情は読めない。

これ以上聞いて良いものか迷ったが、覚悟を決めて質問した。

「どうして、別れたんですか?」

「恋愛より、仕事を選んだからだ」

「なるほど」

なんとも武田さんらしい答えだ。

「あの頃は……今もそうだが、何よりも仕事が最優先だった。 公私混同しないよう、仕事中はあいつと殆ど口もきかなかった」

「真面目ですね」

「あいつはそこが不満だったらしい」

「“仕事と私、どっちが大事なの?” ってやつですか?」

「あぁ。そのようなことを言われたこともある。喧嘩ばかりしていたな」

伊藤さんがヒステリックに文句を言っている姿は、安易に想像できた。さぞ大変だったことだろう。

「あの頃は気持ちに余裕がなかった。俺なりに真剣に交際していたつもりなんだが」

その口調は、妙に懐かしそうで、そして優しく感じられたので、また余計なことを聞いてしまう。

「あの……もしかして、今でも、伊藤さんに未練があったりします?」

すると、武田さんは真面目くさった顔で「それは断じてない。もう何年も前の話だ」と即答した。

「ただあいつには、今でも申し訳なく思っている」