再び車が走り出した。
武田さんが運転に集中しているので、私も静かになってしまう。また沈黙が流れる。
妙に緊張して運転席の方を見れなくて、流れていく窓の景色をじーっと眺めていた。

密室で無言の時間は辛い。
頼むから音楽を流すか、ラジオくらいつけてくれ。

そうだ。何か話そう……何か、何か、話さなくては。
頭の中で、必死に会話の糸口を探す。

で、出てきた話題がこれだ。

「あ、あの! 伊藤さんとお付き合いされてたって本当ですかっ」

突拍子も無い質問に、武田さんは慌てたようにブレーキを踏んだ。信号は赤だった。慣性の法則で、体がやや前のめりになる。

「す、すまん」

動揺してる……
っていうか、なんてことを訊いているんだ私!

「いえ!! あ、え、あ、大丈夫です」

言ってから後悔しても遅い。

どうしよう
どうしよう
どうしよう
この空気。
嗚呼、消えてしまいたい……

冷や汗が止まらない。
話題を変えるべきか、グルグルと考えを巡らせているうちに信号は青になり、車が走り出す。それと同時に、武田さんが静かに口を開いた。

「事実だ」

返答があったことに心から安堵したが、同時に少しガッカリもしていた。

「やっぱり本当だったんですか……」

「それがどうした」

どうしたと言われても。

特に話の展開を考えていなかったので、「いや、すいません……噂で聞いて、武田さんが職場恋愛なんて意外っていうかなんていうか……」と、しどろもどろになってしまう。