「ご苦労だったな」

「ありがとうございます」

武田さんは、従業員出入り口の自販機の前で、缶コーヒーを買って待っていてくれた。
素晴らしい心遣いに感動しながら、それをありがたく頂戴する。が。

「あ、武田さんすみません、私ブラック飲めないです」

「……」

しまった、別に言わなくていいことを口にしてしまった。まぁこういうことはよくある。

「い、家で砂糖いれて飲みます」と付け足して言ったものの、すでに武田さんは仏頂面で自販機に再びお金を入れていた。

「微糖派か」

自販機の前に立って、ボタンを押そうとしている武田さんの声は少し苛ついていた。

「いや、カフェオレ派です……もっといえばコーヒーよりミルクティー派ですね」

「あぁもういい、自分で押せ」

もはや苛立ちを通り越して呆れているようだった。

「あ。これ、コーヒーより20円高いんですけどいいですか?」

「……あぁ、構わん」

「ありがとうございまーす」

我ながらその厚かましさに驚くが、遠慮なくミルクティーのボタンを押した。

「従業員用の駐車場まで少し距離がある。こっちだ」

「はーい」

ミルクティーを片手に、武田さんの後ろをついていく。歩幅が違いすぎて、私は小走り寸前だ。

「武田さん、車通勤だったんですね」

「あぁ。こちらの寮は多少不便な場所にあるからな」

「そっか、武田さんは違う寮に住んでるんですね。どこにあるんですか」

「山の方だ。たまにイノシシが出る。部屋は広いが、とにかく古い」

「へぇ~! 今度見に行ってみたいです」

「何もないぞ。そっちの寮は新しくて設備もいいだろう」

「ワンルームで狭いですけどね。あと、下の階に支配人が住んでるので落ち着きません」

「そうか。支配人こそ、上の階にお前のような問題児がいると落ち着かないと思うぞ」

「失礼な!」

武田さんは私が軽く息切れを起こしていることに気づいたのか、歩くスピードを少し落としながら「それより高畑……」と本題に入った。

「今日は、いつも以上に、ミスとクレームが多かったようだが、どうした」

私はギクリとして、咄嗟に言い訳を考える。

「えー、いや、なんだか頭がぼーっとして……」

「風邪でもひいたのか」

顔を覗き込むように見つめられて、恥ずかしくなった私は、頭がモゲそうなほど、ブンブン首を振った。

「いえ! 全然、元気です! ちょっと、色々あって疲れてただけですから」

「そうか、それなら良い。何があったか知らんが、まあ、あまり無理をするな」

……嗚呼。
『あなた様の過去の恋愛事情が気になって仕事が手につきませんでした』なんて、口が裂けても言えない。

「はい、今日は沢山ご迷惑をお掛けしてすいませんでした」

「誰でも不調の時はある。仕方ないことだ。しかし、お客様には迷惑をかけるんじゃないぞ」

武田さんは、たしなめるように私の頭をポンっと叩いた。

なんか、すごく、心配してくれてる……??

良心が痛む。自分が情けない。

「はい、気をつけます……」

ちらりと隣を見上げると、武田さんはいつもよりも柔らかい表情を浮かべていた。