「おはようございます〜……」
今日も変わらず、急ぎ足で事務所に入り、慌ててタイムカードを押す。出来るだけ目立たぬよう、姿勢と声を低くして。
武田さんはそんな私を睨めつけながら、時計を指差した。
時刻は……8時56分。
あー惜しい。今日こそ5分前、いけたと思ったんだけどなぁ。(でもまあ、いつもよりは早いからよしとしよう)
「おい、高畑。いつも言っているが……」
「昨日はありがとうございました！」
いつものお説教が始まると察知した私は、その言葉を遮って頭を下げた。
そして、昨日借りたボールペンとメモ帳を両手で差し出す。
「これ、返すの忘れてて、すいません」
武田さんは言いたいことを飲み込んで、諦めたように溜息をついた。
「……メモ帳はやろう。そのボールペンは、しばらく持っていてくれ」
「え……？」
「お前は、まともなペンを1つも持っていないな」
武田さんは腕を組みながら、私の胸ポケットに挿しているペンに視線を移した。
思わずムッとする。
普段愛用しているのは、ゆるキャラのマスコット付きのやつだ。あとは百均で買った3色ボールペン。これらのどこが悪いのだろうか。
「ちゃんとインク出るんで大丈夫です」
「そういう意味ではない」
「じゃあ、これのどこがマトモじゃないっていうんですか！」
ゆるキャラボールペンを取り出し、抗議するように言った。キャラクターが激しく揺れ動く。
「デスクで使うにはそれで構わないが……お客様の前で、そのような安っぽいペンを使うのはいただけない。しかも、ふざけたキャラクターが制服から常時見えているなんてのは問題外だ。お客様の目を意識して、それなりの物を身につけろ」
歩き方の次は、持ち物にまでケチつけるのか。この人は。
しかも『それなりの物』ってどんなんだよ……。
クマの姿をしたゆるキャラをしげしげと見つめる。
『ふざけたキャラクター』だなんて、失礼にも程がある。可愛いじゃないか。
でも……うーん。
確かに、お客の前でメモを取る時、このペンではちょっと……恥ずかしいかもしれない。
「……。次の給料が入ったら買いに行きます。それなり、のものを」
「あぁ。それまでは、俺のを使っておけ」
「ありがとうございます」
自分のデスクに戻って、銀色に光るペンを眺めてみる。
昨日、仕事が終わったあと、偶然更衣室で沙耶と会ったのだが、彼女はこのボールペンを見て相当興奮していた。ナントカとかいう有名なブランドの、物凄く高価なものらしい。
失くさないよにしないと。
私はさっそく、ゆるキャラのボールペンをペン立ての中に突っ込んで、「武田ペン」を胸ポケットに入れた。
なんだか、すこし気が引き締まったような気がする。
今日も変わらず、急ぎ足で事務所に入り、慌ててタイムカードを押す。出来るだけ目立たぬよう、姿勢と声を低くして。
武田さんはそんな私を睨めつけながら、時計を指差した。
時刻は……8時56分。
あー惜しい。今日こそ5分前、いけたと思ったんだけどなぁ。(でもまあ、いつもよりは早いからよしとしよう)
「おい、高畑。いつも言っているが……」
「昨日はありがとうございました！」
いつものお説教が始まると察知した私は、その言葉を遮って頭を下げた。
そして、昨日借りたボールペンとメモ帳を両手で差し出す。
「これ、返すの忘れてて、すいません」
武田さんは言いたいことを飲み込んで、諦めたように溜息をついた。
「……メモ帳はやろう。そのボールペンは、しばらく持っていてくれ」
「え……？」
「お前は、まともなペンを1つも持っていないな」
武田さんは腕を組みながら、私の胸ポケットに挿しているペンに視線を移した。
思わずムッとする。
普段愛用しているのは、ゆるキャラのマスコット付きのやつだ。あとは百均で買った3色ボールペン。これらのどこが悪いのだろうか。
「ちゃんとインク出るんで大丈夫です」
「そういう意味ではない」
「じゃあ、これのどこがマトモじゃないっていうんですか！」
ゆるキャラボールペンを取り出し、抗議するように言った。キャラクターが激しく揺れ動く。
「デスクで使うにはそれで構わないが……お客様の前で、そのような安っぽいペンを使うのはいただけない。しかも、ふざけたキャラクターが制服から常時見えているなんてのは問題外だ。お客様の目を意識して、それなりの物を身につけろ」
歩き方の次は、持ち物にまでケチつけるのか。この人は。
しかも『それなりの物』ってどんなんだよ……。
クマの姿をしたゆるキャラをしげしげと見つめる。
『ふざけたキャラクター』だなんて、失礼にも程がある。可愛いじゃないか。
でも……うーん。
確かに、お客の前でメモを取る時、このペンではちょっと……恥ずかしいかもしれない。
「……。次の給料が入ったら買いに行きます。それなり、のものを」
「あぁ。それまでは、俺のを使っておけ」
「ありがとうございます」
自分のデスクに戻って、銀色に光るペンを眺めてみる。
昨日、仕事が終わったあと、偶然更衣室で沙耶と会ったのだが、彼女はこのボールペンを見て相当興奮していた。ナントカとかいう有名なブランドの、物凄く高価なものらしい。
失くさないよにしないと。
私はさっそく、ゆるキャラのボールペンをペン立ての中に突っ込んで、「武田ペン」を胸ポケットに入れた。
なんだか、すこし気が引き締まったような気がする。
