エレベーターが1階に到着した。
事務所へ戻る廊下に、カツカツとヒールの音が響く。この数時間の立ち仕事で、脚が痛くなってしまった。早く裸足になりたい。

「高畑」

武田さんが急に立ち止まったので、私も自然と足を止める。

「以前から気になっていたんだが」

「はい……?」

「お前の歩き方には、品がない」

え。
ええええ!?

私はおののいた。
さっきの感動を返してくれよ、とも思った。

「し、失礼な……!」

私の歩き方ってそんなにヘン!?
そりゃモデルみたいには美しく歩けないけれども。

「そこから10歩、歩いてみろ」

ここでー!?

しかし、歩きたくない、とも言えない。
仕方なく、その場から10歩、いつも通りに歩いた。

すると、すかさずダメ出しが入る。

「背筋が曲がってだらしがない上に、ガニ股歩きで、バタバタ足音がうるさい。もっと上品に歩けないのか。もう一度」

泣きたくなった。
そんな細かいところまで、指導が入るとは思わなかった。

武田さんの事だ。ちゃんと歩けるまで解放してくれないだろう。

次は出来るだけガニ股にならないように気をつけて、元の位置まで歩いた。

「背筋が曲がっている、もう一度」

容赦ない。
次こそは!と、ガニ股にならないよう、かつ背筋を伸ばして歩いた。

「壊れかけのロボットのようだな。もう一度」

マジで勘弁してくれ……。

次は、ガニ股にならないよう、かつ背筋を伸ばし、レッドカーペットを歩く自分をイメージしながら、優雅に歩いた。

「くねくねするな。表情も不自然だ。もう一度」

嘘でしょー!?

武田さんは腕組みをしながら、私のウォーキングを何度もチェックし、ダメ出しをする。