「ったく! 鈍臭いわねっ」
再び伊藤さんがやってきて、目を釣り上げてネチネチと文句を言い始めた。
「無駄な仕事増やさないでくれる? 邪魔でしかないわ」
さすがにカチンと来たが、唇を噛み締めて、怒りを押し殺す。
はぁ……こんなことになるなら、残るなんて言わなけりゃ良かった。
「すいません……」
「とにかく、さっさと片づけなさいよ! 役立たず!」
ムカつくムカつくムカつく……!
でもグラスを割ったのは、自分だ。逆ギレなんか出来るはずない。
なんだか腑に落ちないまま、その場にしゃがみこみ、持っていたトレーを一旦床に置いた。そして割れて散らばったグラスを集めようと、その破片に手を伸ばす。
すると……
「おい、素手で触るんじゃない。怪我したらどうするんだ」
と、武田さんの声が飛んできた。
騒ぎに気づいて、こちらにやってきてくれたみたいだ。その手には、チリトリと箒が。
「高畑……また割ったのか」
はい、と素直に認めると、武田さんはため息をついて、割れたグラスを片付けはじめた。
「私がやります」と申し出たが、武田さんは「危険だ」とか言って、ホウキを譲ってくれない。
「高畑は早くそこのグラスを持って行け」
「いや、でも……」
オロオロしていると、伊藤さんが「自分でやったんだから、自分で始末しなさいよ」と私にだけ、聞こえるようにボソッと呟いた。
そして彼女は、怒りの矛先を武田さんにも向ける。