20時半には、宴会が完全にお開きになった。
その途端、大勢のスタッフが一斉に、片付けに取り掛かり始める。

武田さんに「残飯を処理していけ」と、バケツを渡された私は、それの中にテーブル上の残飯を入れて回った。
食べ残しが多いこと、多いこと。

あ、このえび天、1本食べてもいいかな……。

と、全く手付かずの天ぷらを狙うも「くれぐれもつまみ食いなんかするんじゃないぞ」と、武田さんに牽制されてしまったので、泣く泣く諦めた。

仕事だと割り切り、邪念を捨て、ただ機械のようにポイポイと、残飯をバケツに放り込むことに専念した。


宴会場をぐるりと見渡せば、何十人ものスタッフが、テキパキ、かつ、豪快に片付けを進めている。

ゴミを回収し、残飯を処理し、グラスや、皿を下げ、テーブルクロスを剥がし、椅子を積み重ね……と、物凄いスピードで会場をリセットしてゆく。
その様子は、さながら戦場のようだ。


「なにボケっとしてんの? さっさと手を動かして」

宴会部の先輩『伊藤さん』に怒られて、ハッとする。(伊藤さんは、エラソーで、ネチネチ文句ばっかり言う、物凄くイヤ~な女だ)

「すんません……」

「ったく、トロいんだから」

一々嫌味っぽくてムカつく!
私は顔をしかめながら、残飯で一杯になったバケツを持ち上げた。

で、このバケツ……どうしたら良いんだ?

武田さんの姿を探したけど、何処かに行ってしまったようで、見当たらない。

どうしよう。頼る人がいない……。この場は、仕方ないけど、伊藤さんに訊くしか無いか。