それから後は、ひたすら武田さんに付きまとい、彼の指示通りに動いた。

「高畑、スクリュードライバー1つ、竹の席の女性に」

「スクリュードライバー?って何でしたっけ」

「……トールグラス、ウォッカとオレンジジュース」

「あ!わかりました!」

武田さんはどんなに忙しいときでも、私の質問に答えてくれるし、的確な指示をしてくれる。

思い返せば、今まで宴会ヘルプのときは、毎回武田さんとペアだった。
私は一人では何も出来ない。

今日、一人にされて、ようやく武田さんのありがたみに気づいた。


「高畑。上がっていいぞ。もう20時だ」

バックヤードで、武田さんは腕時計をチラリと確認しながら言った。
宴会もお開きの雰囲気だ。

「あ、はい。……武田さんは?」

「俺は後片付けまで残る」

「じゃあ、私も残ります!」

あれ、私いま何て言った……?

いつもなら一目散に帰るところなのに、自分自身の発言に驚く。
武田さんも、怪奇現象を見てしまったかのように、目をまるくしている。

「どうしたんだ。熱でもあるのか」

「無いですけど!あ、足手まといになるなら、いいです!もう 上がります」

「いや、残ってもらおう」

いつも仏頂面している武田さんが、少しだけ笑っているように見えた。