Prrrr……


「はぁい、お電話ありがとうございます。『ホテル オームラ』担当 高畑が承ります。……あ、はい、明日チェックインの田中様でございますね。お調べ致しますので、少々お待ち下さい」


一旦『保留』を押して、予約管理システムを開き、予約を確認する。
もう2ヶ月も経つというのに、私はこのシステムを使いこなせていない。
時間をかけてなんとか、検索画面を開き『田中』で検索。


--田中 太郎
--田中 真紀子
--田中 ジョージ


んげ、明日のチェックイン、『田中』 が3人もいる。

「おまたせしました~。田中様のフルネーム頂戴できますか?……はい、田中太郎様でございますね。あー、はい、夕食の変更でよろしかったでしょうか?」

……み、見られてる。

私が電話している間、斜め向かいに座っている武田さんに、ずっと監視されている気がする。

武田さんも他のお客さんの電話対応をしているようだけれど、目線は明らかにこちらを向いている。
どうせ後から、言葉遣いがなっていない!とかで叱られるんだろう。

武田さんは、聖徳太子並に耳が良い。自分が電話している間にも、他人の会話をチェックできるという、恐ろしい能力を兼ね備えている。

「あぁはい、どのコースにいたしますか?……和食の懐石ですね。はいー、大丈夫だと思います。え?あ、はい。一応レストランにお伺いしてみます。少々お待ち下さい」

私は電話を再び保留にして、別の電話でレストランに内線をかけようとした。

「おい、高畑、代われ」

自分のお客さんの電話を終えた武田さんが、鬼のような形相で言った。

「あ、はい、すいません」

どうぞどうぞと、私が受話器を差し出すと武田さんはそれをふんだくり、『田中様』の電話対応を始めてしまった。

「お待たせしております、田中様。担当変わりまして、武田が承ります。夕食の件は……」


あーあ、私はまた、何かやらかしてしまったみたいだ。