「なんだこれは」

翌日、武田さんは私の提出した『私のメモ』を見るなり、思いっきり顔をしかめた。
私は平然と「日記です」と答えた。



1行しか書いていない、そして、唐揚げの油染みがついた『私のメモ』……
武田さんの顔は、怒りに満ち溢れている。


「これだけか」

「べ、別に、1行でも良いんですよね?毎日書けば」

すがるような目でそう問いかける。

「……あぁ、構わない。高畑がそれだけの仕事しかしなったということになるが」

武田さんの怒りを含んだ声が、プレッシャーとなって私を追い詰める。

「で、でも武田さん、昨日言ってましたよね?
“些細な事で良い。簡単でも良い。何かを書き記すんだ。細き流れも大河となる。毎日続けることが大事だ!”
って」

私は、武田さんの昨日のセリフを、一言一句漏らさず繰り返した。

無言の時間が続く。
あぁ、武田さんの目が怖い。


しかし武田さんは、無表情で「その無駄に良い記憶力を仕事で活用しろ」と言って、自分の仕事に戻った。

勝った、と思った。