あー、やばい、やばい、やばい。
今日こそ間に合ってないかもしれない。

冷や汗をかきながら、ズカズカと事務所に入る。あちらこちらから溜息が聞こえる。

時刻は8時59分……

間に合え！
私は自分のタイムカードを慌ててひっつかみ、急いで機械に通した。

よし、セーフ！！

私はいつも遅刻ギリギリに出社する。
今日も、タイムカードはしっかりと始業時刻の1分前を刻んでいる。

ほっと胸を撫で下ろし「おはようございます……」と控えめに挨拶すると、直属の上司の武田(たけだ)さんが、ギロリとこちらを睨みつけた。

「遅い。せめて30分前には出勤しろ」

彼は腕時計をトントンと指しながら、とんでもないことを言っている。

30分前って相当早いじゃないか。給料も出ないのに、あり得ない。

「はぁ、すいません」

やる気のない返事して、事務所にあるホワイトボードの自分の欄を「出勤」に変える。

「社会人としての自覚が足りない」云々と、小言を言われている気がするが、いつものように聞き流す。


私の上司で、『マネージャー』の肩書きをもつ武田(たけだ) 博規(ひろき) は、＂真面目＂を見事に体現したような、クソ真面目男だ。

彼のその頭の硬さといったらダイヤモンドの鉱石並みで、考え方も古臭い。
それ故に、一般的な若者（主に私）との感覚のズレが激しい。
彼とは一生分かり合える気がしない。

顔は、良いのに。顔は。本当に。
見た目だけでいえば完全に『イケメン』の部類に入る……けど中身が残念すぎる。

『マネージャー』という役職が、組織の中でどの辺の位置にあたるのか私にはよく分かっていないのだけど、相当偉そうな感じなので、多分偉い人なんだと思う。

実際、仕事はめちゃめちゃ出来るっぽいので、この人の下にいると自分のポンコツ加減が余計に身に染みて辛い。