風見さんに出会ったは、つい先日のことだ。


水曜日は(名ばかりの)ノー残業デー。

珍しく定時ぴったりに仕事を切り上げて、同期の玲奈と、あるイタリアンレストランへ行った。

近くの学生街にあるお洒落なお店。
美味しくてリーズナブルな為、口コミサイトで人気らしい。


「おいしそ～！」

「ボリュームもあるし！」


お洒落な料理が次々とテーブルに運ばれ、2人して小さく歓声を上げた。


「ねぇ有希、さっきの人、イケメンじゃなかった！？」

玲奈は 鼻息を荒げて言った。
そして、あの人！と長身で細身のウェイターを指差す。

「あぁ、さっき料理を運んできた人？」

「そう！超！タイプ！稲森さんだって！」

ちゃっかり名札を確認していたらしい。

私なんて料理しか見ていなかったのに……


玲奈は注文の度にその人を捕まえた。

「おにーさんのおすすめどれですか？」
「おにーさん、彼女いるんですか？」
「おにーさん、おいくつですか？」

etc...

そして玲奈は、彼と話したい一心で、凄いペースでお酒を注文していた。

お会計を終えて帰ろうとしたときには、1人で立てないくらいにフラフラに。


「お客様、大丈夫ですか？」

お会計を担当してくれた別の店員さんが、
明らかに飲みすぎちゃってる玲奈のことを気にして声をかけてくれた。

それが、風見さんだった。


「立てますか？」

玲奈のお気に入り”稲森さん”も、心配してこちらにやってくる。


「大丈夫です。いつものことなので」

私はきっぱりと、答えた。
玲奈は調子に乗ると、いつもこんな感じだから、もはや慣れっこだ。

「良かったら水でも飲んで、休んで行ってください」

風見さんが、気を利かせて水を持ってきてくれたので、
私はそれをありがたく頂いて、玲奈に渡す。