乗るべき電車を1本見送った2人は駅のホームで取り残されていた。
「あ、ありがとう……もう大丈夫です」
涙も収まり、風見さんの腕の中にいることが恥ずかしくなった私は、そこから抜け出す。
ミルクティはすっかり冷えてしまっている。
彼は視線を逸らし、うなじをぽりぽりと掻いた。
「あー、本当は、明日言おうと思ってたんだけど、今言っていい?」
「へ……?」
「あのさ、実は今まで何回か見かけたことあるんだ。……缶コーヒー男前に飲み干してる有希ちゃん」
あぁ、そんなことか……って。え?
驚きと、恥ずかしさと、安堵感と、残念な気持ちが同時に湧いてくる。
「有希ちゃんがうちの店来た時なんか、あ!缶コーヒーの人だ!思って、本当はすごく嬉しかった」
「缶コーヒーの人って……すっごい恥ずかしいんですけど」
ムッとしてみせると、はははと笑い飛ばされた。
「本当はあの時、話しかけてみたかったんだけど、玲奈ちゃんは稲森しか呼ばないし」
そうだったなぁ。
玲奈は稲森さん一直線だったし……
あの日のことを思い出して苦笑い。
「それで、帰り際の有希ちゃんの対応見てたら、しゃっきりしてて、面倒見良くて、友達思いの優しい子で。なんかイメージ通りだなって」
「ただの“缶コーヒーの人”に対して、そんなイメージ持ってたんですね?」
「うん」
風見さんの表情が次第に真剣なものに変わり始める。
一度消えかけた期待が再び膨らみ始めた。