正直に言おう、僕は女性が苦手だ。色の白い足を見せつけたり、黒目を肥大させるコンタクトを使用していたり、僕の想像の範疇を超えてくるその生態。嫌だ。面と向かって話すのはできるだけ避けたい。運動部に所属していない私でも巧みな身のこなしで、高等学校二学年の今まで、そのような状況はスルリスルリと避けてきた。しかし、この時は何故か上手くいかなかった。「隣のクラスの有岡くんでしょ?傘忘れたの?」「いや、人違いだ。僕は断じて有岡などという名前ではない。」覗き込んでくる彼女の顔をかわしながら教室に向かって歩き出した。「やっぱりその喋り方。有岡くんでしょ?」彼女は僕の半歩後ろをついてきた。「では、僕が有岡であると仮定しよう。その有岡に何か用があるのか?」「私は有岡くんに用があるんじゃないの。濡れていて気にかけた人がたまたま有岡くんだったってだけだよ?」彼女の話は退屈だった。「君の話によると、これだけ雨に降られたら風邪を引くのだろう。そうなると一刻も早く体を拭かねばならないな。失礼する。お気遣いありがとう。」自らの丁寧な返しに惚れ惚れしながら、足早に階段を駆け上がろうとした時、少し離れた距離から彼女が言った。「放課後!教室に残っててくれない?話があるの。」その言葉の終わりと同時に朝のホームルームが始まるチャイムが鳴った。「分かった。」遅刻になってしまうという思いに追われていたからなのかもしれないが、思いの外、その言葉は静かに僕の喉を通過した。