僕は世界に反抗したかった。時計の針が7を指す。テレビは「今日の降水確率は100%です」と予言していた。その戯言はしっかりと僕の耳を通り脳の端まで浸透していた。しかし、僕は家を出るとき傘を持たなかった。お気に入りの傘を壊してしまったわけでも、ましてや傘を買うお金が無いわけでもない。ただ、僕は世界に反抗したかったのだ。「風邪を引いちゃうよ」「制服が濡れちゃうよ」僕を心配する声が東京の各地から飛び交うのを容易に想像できる。だがしかし、僕は世界に反抗したいのだ。「そんな事をしても世界には何の影響もない」。登校するたび人間が溢れかえる電車に乗るような奴らにはそう思われるだろう。理解されないことは致し方無い。彼等はただメリットデメリットでしか行動ができない愚かな者なのだ。だからと言って、僕の行動がユーモア溢れる行動なのだと言いふらしたいわけでもない。僕は至って真剣だ。世界に反抗することは簡単なことではない。いつか僕は重力に逆らう予定なのだ。そうこうしている内にすでにそこは学校の敷地内だった。僕の前髪は枯れた植物のように垂れ、僕の制服は雨の日に捨てられた子猫のように濡れていた。この現状、僕は勝ったのだ。世界に。世界を信じ、流され続ける人々に。抗ったのだ。世界の条理に。完全勝利の愉悦に浸っていたその時、世界に反抗した僕の世界に、土足で入ってくる一人の女性に目を奪われた。「風邪引くよ?」 君は誰だ。