その日から本格的にハルはリベロとしての練習に切り替わる。サーブ練習とスパイクの練習には入らず反対側にまわり、レシーブの練習専門になった。なんとか、自分の中の気持ちにケジメをつけ、チームのためにもリベロとして恥ずかしくないプレイをすることに集中して練習に取り組んだ。


強豪校との練習試合での成績もまずまずで、リベロとしてデビュー戦だったハルも初の試合としては満足できた。そのままリベロ固定で毎度試合は出ることができ、回を重ねるごとに自分の課題を見つけ、改善する様努力してきた。



そして、3年生の先輩の最後の大会でも出場メンバーに選ばれたその日。ハルはやはり素直に喜ぶことができずにいた。嬉しくないわけではない。リベロになって他のチームより明らかに日が浅い自分だが、監督にレシーブ力を認められて出場できるだ。だが、それでも心の中にわだかまりができていた。


大会まで日もなく、精神統一させなければと思い練習を終えて学校の近くにある滑り台とブランコのみがある、小さな公園に来ていた。けれど、精神統一とは言いがたくただぼーっとブランコに腰掛けているだけだった。


すると、聞き覚えのある声が聞こえてきて咄嗟に公園の隅へ隠れる。隠れた後ハルは隠れる必要なかったのではと気づくが、結局そのままそこで身を潜めた。

「今日の神代はやっぱ気合い入ってたなー。クイック決まりまくりだし」
「ブロックもあいつやばいぞ!身長あるくせに的確にこっちが打ちたいとこに手があるし」
「むっちゃお前のスパイクブロックされたもんな」

あはははと笑い声を聞きながら、ハルは聞き覚えがあるはずだと納得する。先程まで一緒に練習していた2年生の先輩達だった。盗み聞きは悪いなと思い、耳を手にあてたその時。

「向坂は良かったな、あいつがいてくれて」
「違うだろ。神代がレシーブ苦手だったことが良かったんだろ。じゃなきゃ、あいつ試合出られてないわけだし」

耳を塞いでいるはずなのに、聞きたくなかった声がはっきりと耳に届いていた。その言葉は重く深く、ハルの心にのしかかる。


“良かったな、あいつがいてくれて”

ハルは先輩の声がきこえなくなっても暫くそのまま動くことができなかった。