マサヤ、アユ、ハルの3人がバレーボールというものに興味が出たのは3人の母親が小学校で週一行われていたママさんバレーに参加していたからだった。そこに付き添いでついていって、母親たちと練習に混ざっていたのた。


小学校中学年になると、近所の小学生バレークラブに入り3人はバレーボールという競技に更に没頭していく。6年生の時には男子チーム率いるキャプテンにハルは選ばれ、エースはマサヤであった。女子ではアユはセッターとして活躍し、お互い大会では名を馳せる選手となったのだ。

ハルはキャプテンでありながら裏エースとしてチームを引っ張っていたのだった。チームでの最後の大会では惜しくも準決勝敗退となり、中学生になったらエースになれなくても得点を稼ぐアタッカーとして、活躍したいと意気込んでいたのだが、その期待はある時一瞬で砕かれることとなった。




中学校入学し、マサヤ、ハルは男バレに、アユは女バレに速攻で入部した。一月過ぎた頃男バレは急な練習試合が決まり、その相手が去年県大会決勝まで進んだ強豪校だという。ハルは中学生になり初めての試合でもちろん出たいという欲はあった。だが、1年生でまだ入部したての自分が出れるなんてこれっぽっちもなかっのだ。

当時のキャプテンの号令のもと監督に号令をし、監督が左手にもつ紙をぼーっと見ながら試合に出るメンバーの名前を聞き流していたのだった。その時マサヤの名前が呼ばれはっと監督の顔を見た。“凄いマサヤ流石だ”と内心思いながら新たに自分も頑張ろうと決意したとき·····
「リベロ、向坂」

聞き間違いかと目を見はった時皆がこちらを向いていることを知る。呼ばれると思っていなかったし、ましてや一度も受け持ったポジションでもない。誰かと間違っている本気でそう思ったのだった。

解散の号令がかかり、監督が校舎へ入っていく姿をハルひとり追いかける。
「監督!きっと名前間違っていませんか?俺リベロなんてしたことないですし…」

ハルの呼びかけによって監督は足を止めてくれたがその後に綴られる言葉は思っていた言葉とは全く違っていた。
「昨年の君らの試合拝見させてもらいました。凄くいい試合だったが、神代はレシーブが不得意だ。狙われたら高確率でセッターに返せない。そして向坂、君は背が低いわけでもジャンプ力がないわけではないが、より高くジャンプ力が勝る相手にブロックされたら決定率は極めて低い」

監督の言葉に何も言えなくなってしまった。何故なら的確に自分らの弱点を付いていたからだ。
「神代の身長、そしてアタック決定率に更にクイックをプラスさせたいと思っている。向坂のレシーブは丁寧であり的確にスパイクしたボールにくらいつける。お互いの利点をうまく活かせたポジションだと思っています」


監督の言っていることに理解し、納得もできたのだがそれが自分の望んだ結果でなかったことに頭も心も混乱していて、“はい”とはとても言えずにいた。

そっと肩に監督の手が触れる。いつの間にか俯いていた顔を上げると監督の顔が近くにあった。その表情は期待されている顔だ。

「向坂以外に神代のリベロを任せられるのは残念ながら今このチームにはいないんだよ。頼みましたよ」
そう一言残して去ってしまう。ハルはそのまま動けず、立ち止まったまま先程の言葉が頭の中を駆け巡っていた。



“頼みましたよ”