まだ景色は薄暗い人通りの少ない朝の通学路。毎朝通っているからぼーっとしながらでも足は学校へと進んでくれる。

「おはよっ!」
ポンっと肩を叩かれはっと我にかえり、立ち止まる。そちらを見ると見慣れた長身の男がいた。短髪で軽く前髪が左ウェーブしていて、眉毛はキリッとしていて鼻も高く、目は細めではあるがそれは欠点とは言えない程整った顔をしている。

「まーた、ハルはぼけっとしてたのね!試合中だったら間違いなく大怪我してるわよあんた」
その男の後ろからひょっこりでてきた俺より低い身長の彼女は美少女というよりは可愛らしい顔立ちをしている。メイクはしてないはずなのに睫毛は長く、目もくりっとして大きい。

「ちょっと聞いてるのハル!」
気づいたときには彼女が目の前に来ていて驚いて一歩後ずさってしまった。どうやらまたぼーっとしていたようだ。

「あーうん···········おはよう。雅也、愛優」
話を聞いていなかったのがバレバレだったのか彼女はため息をついて「もういいわ」と一言残して歩き出してしまう。

「ほら、俺らも早く行かないと遅刻するぞ」
肩に置いていた手を放して先を行こうとする彼に待ってと言うがごとく、小走りで彼の背中についていった。




神代雅也、片桐愛優は幼なじみである。親同士が仲が良く小さい頃からずっと一緒だった二人だ。それはずっと今まで変わらなかった···表面上は。

“表面上は”などと付け加えられる理由のひとつはハル···向坂陽実の心情にあった。ハルがアユに対しての気持ちが“幼なじみ”としての気持ちではなかったからである。そして、恐らくマサヤがアユに対しての気持ちもきっと····。