午後の仕事が始まると、課長のほうからとてつもない冷気がビシビシ伝わってきて、みんながビクビクしながら仕事をしているのがわかった。

終業の音楽が流れるとほとんどの人が帰っていき、それから一時間もする頃には課内は、私と課長だけになっていた。

何せ、課一番の仕事のできない私ですから、残業なんてよくある事。

ただひたすら手を動かし続けて気がつくと9時前。

この辺で終わるかと、データを保存してパソコンを閉じ帰ろうとすると、

「おい」

と、奴の声が聞こえた。

デジャブ早いな とか思いながら

「課長、名前呼びましょうよ、名前」

って言うと

「今この場には俺とお前しかいない。」

って言い返された。

「はい。何かようですか?」 

「……もう、夜も遅いし送ってやる。お前が電車通勤なのは知ってる。」

若干早口で言われた。

いや、そんな事より

「いえ、結構です。」

丁重にお断りすると

「もう、遅い」

と。言い返された。

「私が学生の時は九時半まで部活していたので平気です。」

「いいから、乗っていけ」

あーもー、うっとおしい!!!

「嫌です!なんで課長に家教えなきゃ行けないんですか!!子供じゃないんだから一人で帰れます!」

ちょっとイラってきて強めに言い返してしまった。

絶対怒られると思って怒号を覚悟に目をつむる。

しかし、しばらくしても何もない。

あれっと思い目を開けると、あの課長がまるで子犬のようにしゅんとして小さくなっていた。

「え?」

「そうだよな。俺みたいな男に送ってもらうなんて嫌だよな。」
 
なんか、すっごいネガティブなんですけど。 この人は誰ですか?

そんな疑問が頭をよぎったが紛れもなくここにいるのはあの課長だ。

何がどうしてこうなったと私の頭はフル稼働しているが目の前の課長の子犬姿をどこか夢みたいに見ていた。

何か返さなくてわと思い何を言おうか考える。
「あ、いや、あの、課長?」
とぎまぎと言うと課長が私を見てきた。