「ねえ、実希!今日の成人式、瀬川先生が来るんだって!」

買ったばかりだと話していたiphone6の画面を覗き込んだあと、朱莉はくるりと振り返った。
いつもは下ろしている栗色の髪が、今日はくるくるとアップにされていて、それが目元の華やかな化粧とよく似合っている。

「そうなんだ」

揃いの下駄を鳴らして、会場まで大勢の新成人が歩く。
雪は…大丈夫、積もっていない。
痺れるような寒さも、着物用の白くてモコモコとした襟巻きがあるから平気。

「もう〜実希、興味ないの?一番人気の先生だったじゃん」

普段は身につけない、着物だからだろうか。
まだ式すら始まっていないのにもう苦しくなってきた。
それは、会場までの道が緩やかな坂道だからなのか。
それとも朝にお正月で余ったお餅を食べすぎたからか。
原因は分かっているくせに、認めようとしない平常心を保つ自分がいる。

「ん〜そうだっけ?」
「もう!とぼけないの!実希は生徒会役員だったから瀬川先生の凄さはわかるでしょ」

瀬川先生。

「生徒会か…懐かしいな」

私は彼の名をそんなふうに呼んだことはない。

「瀬川先生と、話せるといいね」

胸の高鳴りは、やまない。
ずっとこの日を待っていた。
5年間、ずっと。

瀬川和希

私の、恩師。
私の、すきなひと。