「ごめん、おれのせいだわ」

「はぁっ!?…悟くんさ、危機感薄過ぎ…」

「いやぁ~、煙草友達欲しくってさ~」

「だからってココ教えなくてもいいでしょ…」




へらへらっ…と笑った田中さんは、表情とか雰囲気とかはいつもの「癒しの田中さん」そのものなのに。


着ている服は、いつものよれよれスウェットなんかじゃなくて…全身真っ黒の…なんていうか、闇に紛れて見えにくい服というか…。


まるで今からどこかで戦闘でもするんですか?みたいな、映画でしか見た事の無いような服装をしていて……って、あれ…?




「……あの、悟くんって」

「……あはは~」

「田中さん…以前、ヒロシだって言って…」

「……あれ~?そうだったっけ?」




はぁ…と坂井さんが溜息をついて、口元を掌で擦りながら隠していて。
そんな坂井さんを見上げる田中さんは、申し訳なさそうに眉毛を下げていた。




「ところで三上さん…だっけ?」

「え、あ、はい!」

「……キミは何を見て何を聞いたのかな?」

「……え」




口元に手をやったまま私に向いた坂井さんの視線は、それはもう冷たい以外の何物でもなくて、勝手に体がブルリと震える。


カチャ…と音を立てて直された銀縁の眼鏡も、その冷たさを際立たせていて、自分が見て聞いてしまった事は相当ヤバいというのが窺い知れた。




「……ちょっと落ち着いて話そうか」

「え!ちょっと修ちゃん!」

「……なに」




坂井さんは私を見たまま、私からは見えない位置から聞こえてきた声に返事をした。


しかもその声は、さっき聞こえてきた声のうちのひとつで、残念ながら…その声にも聞き覚えがあって…。




「まさか連れてくとか言わないよね?」

「他にどこで話すの」

「そりゃあ…修ちゃんのオフィスとか…管理人室でも良くない?」

「電気なんか点けたら、どっちも誰かが来る可能性がある場所でしょ…それは避けたいんだよね」




スッ…と壁の向こうから姿を現して、坂井さんと話を続けていた3人目の人は…。




「……どうも」

「……西野先生」

「アナタもさ、ツイてないよね」




「B.C. square TOKYO」の4Fにある「西野メンタルクリニック」の院長先生だった…。