結局、私は職場が変わる事になった……。


正確には『働く場所が変わった』という事なのだけれど……。




私が勤める有明法律事務所の有明先生は、坂井さんと旧知の仲なのか、彼の完璧な外面に騙されているのか、私を出向させて欲しいと頼まれると、少し迷ってはくれたものの頷いてしまって。


同僚全員に羨ましがられ……中には敵意に満ちた目で見つめてくる人もいたけれど……皆快く私を坂井さんの会社に送り出してくれる事となってしまった。




「正直さ、手が回らなくなってきてた所だったから、三上さんが来てくれるの助かるんだよね」




そんな言葉と人当たりの良い笑顔の坂井さんに案内されたのは、彼のオフィスの中でも一番奥にある取締役の部屋……の奥にひっそりと作られている物置というかクローゼットのような小部屋だったのだけれど……。




「……なんですか、コレ」

「いや、俺にはね、分かるんだけど」




備え付けの棚に所狭しと置かれたファイルや書類……とにかく紙で出来た整理整頓が必須であろう物がばらばらと積まれていて。


奥に行けば行くほど、低くなればなるほど日付が古いという事だけは助かっていたけれど……。




「……片付け下手にも程がありますよね」

「……自覚は、ある」

「よく今までこんな状況でやってこれましたね……」

「基本的なデータは全部PCに入れてあるんだけど……どうも紙媒体になると」

「新しい案件増えたらどうするんですか……」

「キミが来たお陰で増やせる」

「……は?」

「俺、上司ね」




こんな少しの会話だけで、いつの間にか坂井さんとは信頼関係が成立してしまっていて。


私達が坂井さんのオフィスでギャーギャー言い合っていた間に、私の部屋にあった荷物は今朝目覚めた部屋に運び込まれ全て引き払われた上に退去の手続きまで終了してしまっていて。


翌日の午前中には役所やら何やら全ての手続きを完了させるように上司命令が下りてしまう位には、私の居場所が彼らの縄張りに取り込まれて行って。


くらくらする頭を抱えたまま、私は彼らの日常に半強制的に引きずり込まれていったんだ……。