カウンターテーブルに戻りながら、昨夜から今朝の事を思い返し、これから自分がどうなるのかを……自分なりに考えてみた。




おそらく、私が昨夜、彼らに遭遇してしまった事は、彼らにとって予想外でマズい状況だったという野は間違いないだろう。


そして、私が彼らを見てしまった上に、彼らを知っていたという事実が、おそらく最もマズい事なんだろう……。




ある意味軟禁状態の今……彼らが手放しで私を解放するとは到底思えないけれど、私に危害を加えるつもりも今の所は無いだろう……。




「……平和に目立たず暮らしたかったのに」




あははっ!とカウンターの向こうから麻生さんの笑い声が聞こえて、考えただけのつもりな言葉が口から零れてしまっていた事に気付いたけれど、訂正する気も起きず。


コトリと音を立てて目の前に置かれた美味しそうなサラダに、自然と涎が出てしまうのもどうしようもない事で。




「……仕事は続けられるんでしょうか」

「勤務先は変わって貰うけど、やってる事は今と大差無いから直ぐに慣れる……君の力量は有明先生に確認済み」




キッチンまで朝食を取りに来た坂井さんが、私の横でコーヒーを飲み干して、カップをコトンとカウンターに置くと、まるでその言葉を用意していたかのように、ふふん…と小さく鼻で笑った。




「取り合えず言う事は聞くしかない……って事で宜しいんですよね?」

「理解が早い子は嫌いじゃないよ」

「それなら私からも、ひとつお願いがあります」




不貞腐れる気持ちから尖る唇を隠しもせず坂井さんに言えば、その様子が気に入ったような表情を返され、カウンターの向こうからはまた麻生さんの笑い声。


『テテッテテテテテー』と子供の頃から聞き慣れたゲームオーバー音と小さい舌打ちがソファの方向から聞こえてきて、視界の端で西野先生が眉間に皺を寄せた。




「……内容による」

「難しい事じゃありません」

「……取り敢えず、聞こうか」




私が何を言うのか探るような瞳を坂井さんに向けられて、カウンターの向こうでは相変わらず麻生さんが楽しそうにしていて。


視界の端には、西野先生が八つ当たりで岡部さんをゲシゲシ蹴っているのが見えた。