「あいつらが戻る前に、大人の話をしようか三上さん」




そう言いながら、冷たい視線を投げ掛けてきた坂井さんの手元で、グラスに入った氷がカランと音を立てて、それに視線を戻すと彼はクイッとひと口ごくりと飲み込んだ。


坂井さんが醸し出す雰囲気は、TVの向こう側で見せている穏やかな印象や、有明先生の事務所に来た時の砕けた印象なんかは全く無くなっていて。


例えは悪いかもしれないけれど……アクション映画で主人公を捕まえてどう片付けてやろうか考えている犯人並みの冷たい視線で……。




「……うぅ……んん……」

「あぁ……面倒だから泣かないでくれる?別にこれから君をこの世から消してやろうとしてる訳じゃない」




何で分かるの!?


猿ぐつわをされていなければ、瞬発的にそう聞いたであろう私の横で、くっくっく…と笑ったのは西野先生だった。


左肘の内側で自分の口元を隠すような仕草をしたまま、小刻みに肩を揺らしているのを見ると、西野先生はきっと……私の考えている事などお見通しなんだろう。




「修ちゃん、顔が怖いよ……折角のイケメンが台無し」

「一真……茶化すな」

「この子はおじさんに世話させましょうよ、きっとそれが一番早いと思いますけどね?」

「俺もそれは考えたんだけどさ……でもこの人、アレじゃん?」




アレ……とは?


チラッと私を見た西野先生は、遂にこらえきれずにブフッ!と吹き出し、お腹を抱えてヒーヒー言いながら笑い始めてしまった。




「三上ちゃんさぁ……考えてる事が顔に出過ぎ……」

「一真……流石に失礼だろ」

「だって修ちゃん……ブフッ!子供でももっと自分の気持ち隠すの上手いでしょ」

「そうだけど」




私の顔を指差しながら、尚も西野先生はヒーヒー笑っていて、坂井さんも併せて2人共さっきから言ってる事と態度が失礼過ぎる気がする……。




「おめーらうるせー」

「おじさん、まだ描いてんの?」

「だってよぉ……両手縛って猿ぐつわなんて、普通のモデルに頼めねえじゃん?デッサンしてんのにその気になったら困るし」

「……出たよ、ヘンタイ発言……」

「うるせーな、おめーも変わんねーべ」

「あのね……ワタシを誰だと思ってんの?そんなの言わなくても自分から望むように教え込むに決まってるでしょ」




あぁ……。


癒しの田中さんが、どんどん癒しじゃなくなっていくし、ゆるキャラ並みにこのビルの人気者な西野先生のイメージもどんどん崩れていく……。