「ねぇ、高本に嘘告しない?」

たまに綾子はおかしなことを言う。

「いいねー!」

身を乗り出して勢いよく梨奈が賛成する。
お、これはいやな予感がする。

「誰がやるのー?」

髪をいじりながら花音が聞く。
つまらなさそうに話すけどなんだかんだ言ってこういう話は花音が一番好きなんだよね。

「そんなの決まってんじゃん」

綾子が私を見ながら言う。
そうして二人が「あー」とか言ってこっちを見る。
観念して私は自信満々な風で言う。

「演技派女優に任せなよ」

綾子はにっこり笑って「さすが女優」と言った。

「冗談、見習いだよ」

私は一応訂正をいれて笑った。
そこから三人はこの話に興味津々で私一人おいてけぼりになる。
告白するのは私なんだけどなー、って言っても聞こえてない。
退屈だった。

(どんなシュチュエーションで告白することになるんだろう。)

私に決める権利はないみたいだから考える。
告白されるなら絶対屋上から叫んでほしいなー、っていう話をこの前四人で話したからもしかしたら私は屋上から叫ばないといけないかもしれない。

(それはさすがに恥ずかしいなー)

そんなことを考えていたら1時間目が始まる予鈴がなった。
三人が元の席に戻る。
私は頬杖をついてこっそり高本を見た。
高本は後ろの席の男子と話している。
私は高本から目線を外した。
日本人顔の英語教師が神経質そうな顔をして入ってきた。
やっぱり退屈しのぎに嘘告はちょうどいいかもしれない、と思った。

三時間目の休み時間には私が高本に告白するっていう噂は広まっていてちょっとびっくりした。
しかも嘘告として広まってないから頑張れよ、とか言われる。
その度に綾子がニヤニヤして私の方を叩く。
広めたのはお前か、綾子。


(高本は恋愛的には好きじゃないなー)

ふと脈略もなく思った。


高本とは女子の中ではよく話す方だと思う。
席も仕組まれてるのかってくらいよく隣になるし、住んでるマンションも一緒だ。
それなりに連絡もとるから、嘘告しても不自然じゃない。

高本はいい人だと思う、面白い人だと思う。
しかも顔もそこそこいいし、バスケ部のスタメンだし。


でも私は高本に恋しない。
私には恋がわからない。