次の日、私は夕べ記入したカード申請の書類を融資窓口へと持って行った。

「どうぞお掛け下さい」
 彼がいつものように、席を促してくれた。


「これでいいですか?」
 私は椅子に座ると、カード申請の書類を出した。


「見せて頂きます」
 彼は、真剣な目で書類を確認していた。

 この人の目、銀行員の厳しい目だと思った。
 別に嫌な印象ではないが、いつもの姿からは意外だった。


「こちらに日付をお願いします」


「すみません。気付かなかった……」
 私は、やはり彼は真剣に確認していたんだと思った。

 彼から、ボールペンを受け取とろうした時、微かに触れてた手が暖かかくて、しばらく私の手に彼の手の感触が残っていた。


「これでいいですか?」
 私は日付の記入をすると彼に見せた。


「はい。大丈夫です。あの…… 飛行機って、何処かへ行かれるんですか?」


「ええ。今度、友達とグアムに行くんです」
 私は楽しみのあまり顔が緩んでしまった。


「それはいいですね。それなら早くクレジットカード作らないといけないですね」


「そうなんです。助かりました。ありがとうございます」


「そんな…… こんな事位しか出来なくてすみません……」


「ええ―。とんでもない」

 私はこんな事をしてもらえて十分なのに、後何をしてくれるんだろう? 
 などと、とんちんかんな事を考えてしまった。


「グアムですか? 僕達も去年社員旅行で行ったんですよ」
 神野さんの言葉に、私の頭は正常に戻った。


「そうだったんですか? 私、夏樹って名前のせいか冬が苦手で、この時期になると暖かい所が恋しくなるんです」


「どちらにお泊りになるんですか?」
 神野さんに聞かれた。

「ニッコーです。海で泳ぐのが楽しみで……」
 私はグアムの話に身を乗り出してしまった。


「日焼けして真っ赤になっちゃって大変でしたよ。日焼け止め忘れないで下さい」
 
 彼の言葉に、この人、本当に真っ赤になったんだろうなぁと想像してしまい、必死で笑いを堪えた。


「はい! 気を付けます」

 これ以上、この人と話していると笑えてくるので、この辺でおいとましようと席を立った。