私は引き継ぎの準備に追われ、銀行へは私の後を担当する子が行くようになっていた。
 どんな顔で彼を見ればいいか分からなかったので、少しほっとしていた。


 忙しい上に、パソコンがトラぶり、英会話の日だと言うのに残業の有様だ。

 私は、荷物をまとめると急いで喫茶店へ向かった。
 少し遅れるな……
 連絡しようと思ったが、その間も惜しく走る事にした。


 でも、きっと今日はレッスンにならないと思う。



「すみません。パソコンがトラぶっちゃって、月末の処理が終わらなくて……」
 私は、喫茶店に入るなり彼に謝った。


「いいえ。お忙しかったんですね。お仕事大丈夫ですか?」
 彼は苛立つ事も無く心配してくれた。


「はい。何とか終わりました。良かった。海原さん帰っちゃったかと思って」


「おいおい……。まだ十分足らずですよ。そんなに僕は気が短く無いですよ」

「失礼しました」

 私はぺこりと頭を下げ笑った。

 彼も笑ってくれた。


 マスターが注文を取りに来たテーブルに近づき、ニコッと微笑んだ。
 彼はブレンドを、私も同じ物を頼む事にした。


 コーヒーが届くまでお互い口を開かなかった。