「橋爪さんありがとうございます」


「いいのよ。でも夏樹ちゃん。いつまでも、過去の男に未練や同情を残しちゃだめよ!」


「えっ」


「今度は、夏樹ちゃんの事を一番大事にしてくれる人見つけなさいよ」


「橋爪さん……」
 私は嬉しくて涙が込み上げてきた。


「これで、しばらくは課長も懲りるでしょうから。女の子にも手を出さないわね」



「私…… 課長の事は本気で好きだった。セクハラはげおやじ達からも何度も助けてもらったし、仕事だって頑張る事出来た。だから、間違っていたのかも知れないけど、人をすきになった自分を否定したくない……  これをばねにしてもっと強くなりたい。それじゃダメなのかな?」



「いいじゃない。夏樹ちゃんらしくて。失恋の傷はいい女のアクセサリーよ。自信を持って堂々と好きな人の前に立ちなさい。これから、もっともっと夏樹ちゃんいい女になるから」


「橋爪さんみたいに、いい女になれるかな?」


「やだなぁ、夏樹ちゃん。恥ずかしいじゃない」


「だって、私の為に唇犠牲にするなんて、カッコ良すぎるよ」


「そう? たまには使ってみたいじゃない?」


「ありがとう……」


「でも、夏樹ちゃんいなくなると、ちょっと淋しいな」
 橋爪さんの目にも涙が滲んでいた。


「私も寂しい……」



 橋爪さんは又、笑顔に戻って私を見た。


「ところで、海原さんには留学の話はしたの?」


「えっ、まだ…… でも、多分喜んで応援してくれると思います」


「そうかな?」
 橋爪さんは首を傾げた。

「今度の英会話の時に話します」


「そう……」


 橋爪さんはお茶の用意を一緒に手伝ってくれた。



「課長! どうしたんですかその口! 口紅じゃないのかい?」

 ハゲおやじ達の大きな声に、私と橋爪さんは顔を見合わせて笑った。