私は、お茶当番のため給湯室へ向かった。

 すると、突然後ろから橋爪さんが追いかけてきて、私を給湯室の奥に隠した。

 そして橋爪さんは戸棚の影に隠れ、入口から制服のスカートの端と腕だけが見えるように立った。
 私に「し―っ」と指を立てて見せた。
 橋爪さんの口は真っ赤な口紅が塗られていて、私は訳が分からず橋爪さんの指示に従った。


 すると、給湯室の入口から課長が足早に入って来て、すっと橋爪さんの顔の前に自分の顔を出した。
 課長の体が一瞬止まったが、すかさず橋爪さんが課長の頭をおさえた。


 ぶちゅう――


 ええ―。


 橋爪さんが課長の唇を奪った。


 しかも、ぶちゅう、ぶちゅうと何回も!


 そうか! 課長は私と橋爪さんを間違えたんだ!

 制服の端しか見えなかったから、分からなかったんだ!


 大きな体の橋爪さんから、やっと離れた課長の顔は真っ青で、口の周りだけが赤く口紅が着いていた。


「課長! 私のファーストキス奪ったんですから責任とって下さいね」
 橋爪さんは上目使いに課長を見ながら、クネクネと近づいて行った。



「ファ、ファーストキスって事は無いだろう? 責任って……」
 課長は後ずさりしながら言った。



「あら、ご存知ないんですか? キスも二十年以上してなかったら、ファーストキスと同じ価値なんですって。
 なんなら、バージンも上げますよ。旦那にも二十年以上触れられてないので。どうぞ」


「いや、いや……」


 私は給湯室の奥から出て、課長の前に立った。


「私は課長との事は終わりにしました。橋爪さんと仲良くお幸せに……」


「そ、そんな……」


「あら―。夏樹ちゃん課長を私にくれるのね。ありがとう」
 橋爪さんは課長に抱き付こうとした。

 
 課長は橋爪さんから逃げるように給湯室を出て行った。