私は橋爪さんに促され、海原さんの家の玄関へ入った。


 彼、どんな顔するだろう? 

 ワクワクしながら私は彼の顔を見た。


 えっ……


 彼は、凄く怖い顔をして立っていた。


「雨宮さん、実家からイチゴが届いたって家に持って来てくれたのよ。前に銀行にお勤めの海原さんの家が隣だって話したものだから、お宅の分もって……。 息子さんの車があったから、家に居ると思って来てみたのよ……」

 橋爪さんが説明してくれるが、彼の表情は変わらない。


「あの…… 雨宮です。いつも海原さんに英会話でお世話になっていて、これよかったらどうぞ……」
 私は丁寧に頭をさげ、イチゴの箱をお母様に渡した。


「あらまあ。すみません…… どうしましょう? どうぞ上がって下さい」

 お母様が言って下さったので、彼の顔を見たが何も言ってくれなかった。


 しまったぁ…… 怒らせてしまった。

 誠実な彼にしてみれば、突然の私の行動は非常識だったのだろう?


「いいえ、近くまで来ただけなので」
 私は、挨拶を済ませ玄関を出た。


 なんだか凄く悲しい…… 何故だろう?


 いつも優しい彼を怒らせてしまった。
 なんてことしちゃったんだろう?


「夏樹ちゃんどうしたの? 暗い顔して」
 橋爪さんが心配している。


「海原さん、なんか凄く怒っていましたよね?」


「そうかしら? 驚いただけじゃないの?」

「でも…」


「ほら!」
 橋爪さんが指さす、海原さんの家の玄関を見た。

 彼が凄い勢いで突進して来た。


「あの、良かったら、上がって下さい」
 彼は息を切らしながら言った。


「いいえ、急に伺ったのでごめんなさい。怒っていますよね?」
 私は不安一杯で聞いた。


「違うのよ! 驚いただけ…… 上がって行きなさいよ。海原さんの奥さんも喜ぶわ!」
 橋爪さんが気を回してくれた。


「お願いします。上がってください」
 彼にお願いされてしまって、私は何が何だかわからなくなった。


「さあ、さあ」

 私は橋爪さんに促され、彼の家の玄関へもう一度と入った。