彼は私が食べるのを確認すると、慌てて口にしたが咽込み始めてしまった。

 私は慌ててお手拭を差出したが、せき込む姿に耐えらず笑い出してしまった。
 彼も咽ながら笑いだした。


 私はいつ彼が、山下課長の事を聞いてくるのかと覚悟していたが、彼は私の他愛もない話を、笑って聞いていてくれた。


 最後のしめに、私はうどんと決めていたのに、彼が雑炊と言った。
 私は簡単に譲れなくてじゃんけんで決めようと提案した。
 賛成した彼の真剣な手真似に、又、私は笑い出してしまった。

 結局じゃんけんに私が勝ち、うどんとなった。


 そうは言っても奢ってもらう立場で、うどんと言い張ってしまい少し申し訳ないと思った。


「ねえ、うどんもおいしいでしょ?」
 私は伺うように彼を見た。


「まあね……」
 ああ、良かった。

 私は彼が、連絡先を聞いたり、家に送って来たりするのかと思ったが、彼は店から出ると、私に深々と頭を下げ、本当に嬉しそうに帰って行った。


 この人、大きな仕事が決まって本当に嬉しいんだなぁと思った。


 だけど、一人になると又課長の事が頭に浮かんできた。


 でも、今夜一人で泣き続けているより、彼と鍋で暖まれたほうがずっと良かったと思えた。


 ありがとう… 銀行員さん…