でも、私がおごってもらう理由が見当たらない。


「でも、なんで私のお蔭なのですか?」


「背中を押してくれたのは、あなたですから……」


「わたし?」
 私はさっぱり意味が解らなかった。


「あなたは気が付いて居ないかもしれませんが、銀行にあなたが入ってくると、皆の活気が出るんです。僕もあなたの颯爽とした姿に、背中を押されたんです」

 今、こういう言葉は胸が詰まる。

「私なんて……」


「僕にとっては、あなたは輝いている人なんです。さあ、煮えてきた。食べましょう」


 えっ? 今なんて言ったの? 
 この醜い最低の行動をした私を輝いている?


 好きな人に背を向けられて、全ての人に自分を否定されている気がするのに… 

 こんな時、誰かに輝いているなんて言われたら、前を向いてもいいのかと思ってしまう。


 私は胸にぐっと力を入れて言った。


「うわ―。美味しそう!」
 言葉にすると、自然と笑みが出た。


 私は鍋から器によそい、口に運んだ。

 思っていたよりずっと美味しくて体の中にじわぁっと暖かさが流れて行った。