嫌な予感は絶対に当たる。

 昔からそうだ…

 私の前を、お茶当番の美香が給湯室へと入って行った。
 私は思わず反対側のトイレに入り、給湯室の入口を伺ってしまった。


 やっぱり… 

 課長が給湯室へ入って行った。

 会話は聞こえてこない… 

 私は給湯室へ入る事が出来ず、トイレの鏡に映る自分を見た。


 なんて顔しているんだろ… 

 悲しい… 嫉妬… 
 醜い自分が鏡に映しだされている… 

 思わず涙が込み上げてきた。


 確かに解っていた事だ… 
 課長が自分の物にならない事… 
 いつかは別れが来ること…  

 でも、こんな… あまりに惨めすぎる… 


 このまま美香の元へ行って、山下課長は私の物とでもぶちまけてしまいたいが…… 

 それも自分が醜くなるだけだ… 


 トイレから誰かが出てくる音がし、私は慌てて空いているトイレの個室に身を隠した。

 しばらく、そのまま声を押し殺し次から次へと出てくる涙を手で押さえた。


 それでも、仕事に戻らなければとトイレの戸をそっと開けると同時に、橋爪さんがトイレへ図面を持って入ってきた。


 慌てて私は下を向いて顔を隠した。


「ごめんね、夏樹ちゃん… 悪いんだけどこの図面、設計事務所に届けてくれないかな? 直帰でいいって言われたんだけど、私まだ伝票の入力終わらなくて。課長には言っておくから、急いで行ってくれる」

「えっ。でも……」

「悪いわね……」
 橋爪さんは図面を洗面台に置きトイレを出て行った。


「橋爪さん……」


 私はもう一度自分の顔を鏡で見た。

 こんな自分は嫌だ!


 私は咄嗟にポケットから携帯を出し、行きつけの美容院へと電話を鳴らした。