「その次の日に交代してもらったんだよ。
どうしても親に聴いてほしかったから」
そっか。
あのステージで弾いたときは、彼の両親は聴いていなかった。
きっと彼なりのけじめをつけるためだろう。
そして、親にもう大丈夫だと伝えるためだ。
その考え方がなんだか先輩らしくて、思わず笑みを浮かべてしまった。
「……何笑っているんだよ」
複雑そうな顔をして、冷たい目で睨まれる。
けれど、確かに笑顔が見える。
────好き。
またそんな気持ちが芽生えて、笑ってしまう。
この気持ちを伝えるつもりはない。
まだそのときではないとわかるから。