一瞬だけ那月が言葉を詰まらしたものの何か急いでいるかのように早口で喋り出した。


「私バイト終わって帰ってる途中なんだけど、さっき須賀先輩に似てる人を見たの」


「えっ、先輩を…?」


たくさん会えるかもと期待していた夏休みも明日と明後日で終わってしまう。

自宅に顔も見せずどこで何をしているのか一切わからない今、結局一度も会うことができなかった私にとって、先輩に関する小さな情報は貴重なのだ。


「うん…それがさ、スーツみたいの着て怪しいお店に入って行ったんだよね」


「スーツ?…怪しいお店って、何…?」


良い情報かと思いきや、那月の焦りと小声で話してる様子からすると、良くないことだと私でも感じ取れる。


そしてある程度那月から話を聞き出し


「…だと思う。私今急いでて行けないから吹季お願い!先輩を助けてあげて…!」


そう慌てながら言い残すと、いつの間にか電話は切れていた。


そこから数秒、時計が動いている音だけが響く部屋の中で固まったまま、さっきまでの話を頭の中で整理する。


時計を見ると23時前。


「…行かなきゃ」


横になっていた体を起こして急いで着替えると携帯をポケットに入れて部屋を飛び出す。