――クリス様は私の結婚相手で、この城の城主になるのですから――

(そうだ、クリス様は私の旦那様になるお方だったわ)
 
 迫る現実に、ソニアの不安は一気に増幅する。

(私、クリス様と結婚なんか出来るの? だって、髭とか無駄毛とか生理的に受け付けないのよ?)

 ――それに

(セヴラン様……)
 
 淡い初恋だと言うものの、彼に長く恋煩いをしていたソニアの心は、切り替え良くいかない。

「姫君、どうされた?」
 
 急に黙りこくり、しゃがんだままのソニアにクリスは、顔の高さを同じにして彼女の安否に杞憂する。
 
 それがいやに癇に障る。

「その汚ねえ髭面を近付けるんじゃねえよ」

 またもや自然に口から罵りの言葉が出てソニアは
「ヒュッ!」
と息を飲み込みながら、慌てて口を塞いだ。
 
 驚いて自分を見るクリスやマチュー、そして二人の頭の視線が痛い、恥ずかしい。

「ご、ごめんなさい! 私疲れているみたいで……! 先に部屋に戻っています! 悪魔払いの手配をよろしくお願いね!」
 
 また勝手に口がモゴモゴ動く――怖い。
 
 ソニアは、隠してある胸元のロザリオに触れながらその場を去った。

(怖い! これもこの城に居着いている者の悪戯?)
 
 早く司祭に来ていただかないと!
 
 ソニアは次から次へと起こるトラブルに、気が滅入り始めていた。