クリスは、自分の横に立て掛けた布にくるまれた大剣を撫でていた。それは祖父が対司祭用に教会に依頼したものだと聞いた。
 
 そして、それを受け取るために出掛けた兄達は、事故で帰らぬ人となったことも。
 
 その様子を対面に座り、眺めていたソニアは不思議な気持ちでいた。

(失敗したら私だけでなく、クリスやパメラまで巻き添えになるのに……)
 
 生きるか死ぬかの舞台に上がる。
 
 なのに、自分とクリスの間には悲壮感や緊張感など緊迫した雰囲気はない。
 
 彼だけを見ていると、これからピクニックにでも行くのかと思う長閑さだ。
 
 自分もパメラが心配だが、どういうわけか余裕がある。
 
 鼻唄を口ずさんばかりのクリスを見て、ソニアはクスリと微かな笑いを漏らした。

「不思議です」
「何がです?」
「クリス様を見ていると、どんな苦しい状況でも大したことが無いように思えてきます。クリス様がいれば大丈夫――そう思えてしまうんです」
「買い被りすぎです、姫――おっと、ソニア様」
 
 キッと睨み付けられたクリスは、慌てて言い直す。