「……それだけ? 幼なじみっていうだけ?」
「他に何があんの?」
「それは……」
ありさをチラリと見て、口ごもる女子。
「まぁいいや。蒼空くんが幼なじみって言うんなら信じる!それよりさ……」
篁くんの目の前に立ち、その女子はありさに向いていた彼の視線を、シャットアウトする。
そうして、再びガヤガヤとした騒がしさを取り戻す教室。
好奇の目から逃れられたありさは、ホッとしたように「はぁ」と、息を吐いた。
こういうことになるから、校内ではなるべく話しかけたりしないようにしてるって、前に聞いた。
それなのに、あっちから話しかけてくるなんて……。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう」
ありさを気遣いながら、私自身もホッとする。
ありさのすぐ隣に立っていながら、彼の目、声が私に向けられることはなかった。
良かった……。
どうやら“あのとき”のことは、覚えていないみたい。
だったらまだいい。
彼の前の席なんて最悪だけど、出来るだけ関わらないようにしよう……って、そう思った。