「や、やだ……」
小さく呟いて、隣に立つありさのブレザーの裾を、きゅっと引っ張る。
出席番号はあいうえお順。
高宮という苗字の私。
少し考えれば、こうなるだろうことは容易に想像出来た……けれど。
――篁 蒼空。
私のひとつ後に書かれた名前に、全身の血の気がサーっと引いていく。
……と、いうことは、私の席はあの男の前。
「ありさ、お願い代わって」
「あたしはいいけど、さすがに怒られちゃうと思うよ?」
ですよね……。
苦笑するありさに、ガックリと肩を落とす。
無理なことくらい、私もわかっている。
だけど、あんな男の真ん前の席だなんて、今からもう鬱すぎて……。
「最悪……」
私が涙ながらに呟いたのと、ほぼ同時だった。
「ありさ?」
教室の真ん中から、響いた声。
その瞬間、騒がしかった室内がしんと静まる。
視線が一瞬にしてこっちに集まる。
呼ばれて顔を上げるのは、私の隣のありさ。
呼んだのは彼……篁くん。