彼は私の手に無理矢理炭酸飲料を握らせると何事もなかったかのように人混みの中に消えていった。



驚いたような顔でこっちを見る南美。

「誰?知り合い?」

まさか!
必死に首を横に振る。

あんな人、知らない。
いきなりどうしたの。


「でも良かったね。すごく優しい人じゃん」

「うん。…でもお金…」

後ろから早くしろという声が聞こえてきて慌てて列から離れる。

結局、110円はまだ私の財布の中。
ああ、どうしよう。
名前も分からないし学年も分からない。

どうしよう。

「…山口って書いてあったよ。上履きに」

山口…。
聞いたことないな。

「それに学年カラーも南美たちと一緒だったから同い年だよ。多分ね」

南美、よく見てるなぁ。
私、頭真っ白で何も見れなかったし話せなかったよ。

「そうか。じゃあ、シヲに聞いたら分かるかな?」

「もしかしたら分かるかもね!」