では何故スズランに口づけをしたのだろう。
　特に何の意味もなく、面白半分にからかっただけだというのだろうか。

「っ…」

　激しい胸の痛みに目の前が涙で歪む。
　〝危ないから近づくな〟と言うセィシェルの忠告を漸く理解した。だが、理解をした所でもう遅い。
　何故ライアを目にする度に心がざわつくのか、何故こんなにも胸が痛むのか。この感情の正体に気が付いてしまった───。いや、気付かないふりをしていただけでとっくに分かっていた。
　隣でセィシェルがライアに向かって喚く。

「そんなこと言っても信じるもんか。あんた、何時だってスズを目で追ってる癖に……自分で気づいてないのか！？　本当にそう思ってるならもううちの店に来るなよ、迷惑だ！」

「ああ、俺はこの酒場(バル)にはもう…」

　この酒場(バル)にはもう来るつもりはない。そう言おうとしたのだろうが、その言葉を遮る様に声を張り上げる。

「二人とも、わけわかんないっ！！」

「スズ！？」

「なんで二人が喧嘩するの？ ……わたしが迷惑かどうかなんて、わたしが自分で決めることだわ！」

　どうにも悲しくなり、口論を始めたライアとセィシェルに当たり散らしてしまう。