不意にセィシェルが裏口から現れた。
 状況を確認すると恐ろしい形相で駆け寄ってきて二人の間に立ち塞がる。しかしいつも以上に苛立って居るのが分かる程、荒々しく強い力でスズランの腕を引き掴んだ。

「セィ、シェル!? やだっ、はなして!」

 セィシェルはスズランの抵抗を無視し強引に身体を引き寄せて小さな頬に唇を寄せた。唐突に、まるで目の前の相手に見せ付けるかの様に。
 ライアの瞳が大きく見開かれる。同時に羞恥心で身体が熱くなり、ついにスズランは俯いた。

「あんたは女なんて不自由しないし誰でも良いだろーけど、俺はずっと前から一人って決めてる! だからスズに手をだすなよ!」

 セィシェルがライアに向かって叫ぶ。
 ───女に不自由していない。誰でも良い。この言葉に大きく動揺する。だが、当の本人は余裕でセィシェルを嘲笑った。

「へぇ。子供(ガキ)同士お似合いじゃあないか……安心しろよ、俺は年下は好みじゃあないんでね」

 ライアの冷たい声と言葉はセィシェルが叫んだ言葉よりもスズランに衝撃を与えた。言葉が一つ一つ刃物の様に心に突き刺さる。
 〝年下〟は好みではない……。その一言に心臓がぎゅうっと締め付けられた。